これまで本学会では、生命や環境などをめぐり、諸宗教と諸学問分野が共有し、また現代社会が直面する問題について共同研究を進めてきた。2020年度の研究プロジェクトでは、こうした本学会の研究成果を踏まえた上で、昨年度に引き続き「心」をめぐる諸問題に取り組んでいきたい。「生命」と同様に、「心」は広範な問題領域を包括する概念であり、そこにおいては、認識・認知・意識だけでなく感情・情動そしてスピリチュアリティ(霊性)が相互に密接に関連し合っている。また関係する学問分野には、宗教学、倫理学、哲学はもちろん、心理学、社会学、認知科学、脳科学、あるいは人類学、教育学、法学などが含まれる。
「心」に関わる問題が広範に及ぶことは、多様な研究テーマを専門とする全ての会員がそれぞれの研究の立場から研究プロジェクトに参加することができると同時に、問題が拡散し焦点が定まらないことも考えられる。そこで、2020年度は「心」に関する問題領域の中でも、特に日本宗教をめぐる現状と課題に焦点を合わせたい。私たちが直面する世界規模の倫理的な諸課題に対して、日本宗教の特徴を踏まえた視点から、いかに応答するかは、本学会において検討すべき問いであり、真剣な議論が求められる。会員のみなさまには、積極的な発表・参加を大いに期待したい。
なお、「心」というテーマは多くの宗教が共有する問題領域であるが、現代宗教をめぐってしばしば見られる
ような、歴史的な諸宗教がその個性を希薄化し、「心」に収斂するかに見える動向とは、一線を画することが必
要である。「心=宗教」という漠然としたイメージに寄りかかるのではなく、むしろ、個々の宗教の歴史的な個
性とその現代的意義を問い直す方向で議論を展開したい。