これまで本学会では、生命や環境などをめぐり、諸宗教と諸学問分野が共有し、また現代社会が直面する問題
について共同研究を進めてきた。2019年度の研究プロジェクトでは、こうした本学会の研究成果を踏まえたうえ
で、新たなテーマとして、「心」をめぐる諸問題に取り組んでいきたい。「生命」と同様に、「心」は広範な問
題領域を包括する概念であり、そこにおいては、認識・認知・意識だけでなく感情・情動そしてスピリチュアリ
ティ(霊性)が相互に密接に関連し合っている。また関係する学問分野には、宗教学、倫理学、哲学はもちろん、
心理学、社会学、認知科学、脳科学、あるいは人類学、教育学、法学などが含まれる。
「心」に関わる問題が広範に及ぶことは、多様な研究テーマを専門とする全ての会員がそれぞれの研究の立場
から研究プロジェクトに参加することができると同時に、問題が拡散し焦点が定まらないことも考えられる。
そこで、2019年度は、「心」の問題領域の広がりのなかでも、特に現代世界が「心」との関連で直面する問題
に焦点を合わせたい。たとえば、現代世界を生きる私たちを分断し対立させる差別や偏見の問題、学校や職場か
ら家庭にまで広がるいじめ、虐待、ハラスメントの問題、LGBT/性的マイノリティの問題など、「心」をめぐる
現代社会の病理は深刻であり緊急の対応が求められている。宗教倫理がこうした現代世界の問題状況にあって何
を語りうるかは、宗教倫理学会において検討すべき問いであり、真剣な議論が求められる。会員のみなさまには、
積極的な発表・参加を大いに期待したい。
なお、「心」というテーマは多くの宗教が共有する問題領域であるが、現代宗教をめぐってしばしば見られる
ような、歴史的な諸宗教がその個性を希薄化し、「心」に収斂するかに見える動向とは、一線を画することが必
要である。「心=宗教」という漠然としたイメージに寄りかかるのではなく、むしろ、個々の宗教の歴史的な個
性とその現代的意義を問い直す方向で議論を展開したい。
今回は通常の研究会とは異なり、2018年ノーベル平和賞を受賞されたナディア・ムラドさんの自叙伝
”The Last Girl” を題材とした読書評論となります。本書を読んでご参加くださいませ。