生命に関する倫理については、様々な学問分野が関心を持つ。生命倫理学、医学、看護学、生命科学、法学、哲学、倫理学、宗教学、心理学、社会学、文化人類学、政策学、科学史、女性学、マスメディアなど、実に多岐にわたる。本学会では、2003年度および2004年度に「生命と宗教――生命倫理からの問いかけ」「生命と宗教――東洋的視点から見た生命倫理」を研究プロジェクトのテーマとして、研究会を開催し議論した。しかし、それ以降今日に至る間に、生命をとりまく環境、特に“生命操作”につながるのではないかと思われる技術やグローバル化が大いに進んできた。その一方で、それらについての法整備やそれに関わる諸分野から議論、倫理や宗教からの発言は技術の進歩に追いついていないのが実情であろう。
私たちの前には、安楽死や尊厳死のような終末期医療をめぐる問題、脳死・臓器移植、代理懐胎等の生殖医療や再生医療にみられる人体の利用、遺伝子診断や遺伝子治療という遺伝情報の取り扱い等々、多様で難解な諸問題が山積されている。これらの問題に対し、どんなルールが必要かつ適切なのか、規制するとしたらどのような根拠を示せるのか、配慮すべき倫理的事項は何か等、生命倫理を中心に「宗教倫理」の今日的課題を網羅的に洗い出し、改めて本年度の研究プロジェクトで議論し、宗教倫理学会の中長期ビジョンを策定できるように取り組んでいきたい。
また、生命に関する各宗教の視点や考え方、特に生命操作に関わるような議論を積極的におこない、それぞれの立場に基づく議論を踏まえ、同じ日本の宗教土壌に根ざしている他宗教の立場の位置づけなど、統合に向かう議論の発展を目指したい。会員の積極的な発表・参加を大いに期待する。