研究プロジェクト

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2012年度

「3.11以降の社会と宗教」

 東日本大震災は、日本社会に未曾有の影響を及ぼした。3.11は、持続可能な復興支援のあり方だけでなく、未来社会におけるエネルギー政策とそれに連動する生活のあり方を我々に突きつけている。地震と津波という自然災害によって引き起こされた原発事故は、人間が作り出した技術とエネルギーを人間の手で制御できないというリスク社会の暗部を際立たせることになった。しかし、福島第一原発での事故は、もっぱら、何をもって安全とするかという技術的な側面から議論されてきており、原発の位置づけをめぐる倫理的な議論は、わが国では残念ながら十分に成熟しているとは言えない。

 

  3.11の被害者を支えるボランティア活動と共に、原子力エネルギーを安易に受容してきたことの反省は、仏教をはじめとする宗教界においても広がりつつある。本学会でも、そうした活動から学んでいきたいと考えている。しかし、ただ反原発を唱えるだけでは、根本的な問題解決とはならないだろう。原発を拒否しながら、これまでと同じ生活レベルとそれを支えるエネルギー供給を要求することは、倫理的には矛盾している。エネルギー問題は、我々の生活のあり方や価値観そのものを問い直すことに他ならない。

 

  本学会では、現代社会が抱える倫理的課題に取り組んでいくという設立の趣旨にのっとり、「3.11以降の社会と宗教」を本年度の研究テーマとして設定する。日本の宗教伝統は、自然と人間、人間と人間との関わりについて、確かに多くの知恵を蓄積している。しかし、伝統的な知恵を紐解くだけでは、高度な技術によって管理され、同時に人間関係が急速に変化している現代社会に対し、必ずしも適切な倫理的指針を提供することはできない。宗教伝統や教義を批判的に検証しながら、それを、日本社会が今直面している課題に対して、どのように生かすことができるのか、を問うていきたい。
  このような目的のため、本年度の研究プロジェクトでは、(1)宗教者による復興支援・宗教の社会貢献という側面と、(2)原子力エネルギーに対する宗教倫理的考察という側面を交えながら、長期的な問題解決のための最初の一歩を踏み出したいと考えている。

第1回研究会

日時
2012年3月17日(土)13:00-15:30
場所
龍谷大学大宮キャンパス 清和館3階ホール
演題
3.11以降の社会と宗教
講 師:

福島和人氏(真宗大谷派東本願寺教学研究所嘱託研究員)

栗林輝夫氏(関西学院大学教授)

 

趣旨説明:

小原克博氏(同志社大学 教授)

 

 

「依正不二の教法」

福島和人氏(真宗大谷派東本願寺教学研究所嘱託研究員)

「原発をキリスト教はどう見るか」

栗林輝夫氏(関西学院大学教授)

 

パネルディスカッション:

福島和人氏、栗林輝夫氏、小原克博氏

 

≪主旨≫

 本学会は本年の研究テーマ「3.11 以降の社会と宗教」のもと、(1)宗教者による復興支援・宗教の社会貢献という側面と、(2)原子力エネルギーに対する宗教倫理的考察という側面を検 討していく予定であるが、今回の公開講演会では、こうした課題を市民の方々と共有したい。

 

第2回研究会

日時
2012年4月19日(木)18:00-20:00
場所
キャンパスプラザ京都2階第1会議室
講師
石田 歩氏(アーユス・仏教国際協力ネットワーク関西事務局)
演題
「東日本大震災支援報告──アーユスの活動から」
「東日本大震災支援報告──アーユスの活動から」

石田 歩 氏(アーユス・仏教国際協力ネットワーク関西事務局)

第3回研究会

日時
2012年5月24日(木)18:00-20:00
場所
キャンパスプラザ京都2階第1会議室
講師
稲場圭信氏(大阪大学 准教授)
演題
「時代の転換期における利他主義と宗教」
「時代の転換期における利他主義と宗教」

 稲場圭信氏(大阪大学 准教授)

 

≪発表概要≫

■宗教的利他主義:宗教的理念にもとづいた利他主義『利他主義と宗教』41頁
 ⇒宗教の社会的あり方
 ⇒ 宗教者の生き方、他者・社会との関わり方
   信仰によっていかに救われるかという救済観とも関連
■宗教ボランティア:宗教的利他主義にもとづいて『利他主義と宗教』46頁
  ・宗教者が行うボランティア活動
  ・宗教団体が母体のボランティア活動
■被災地での宗教の力
  ・資源力:場の力(畳、広い空間)、物の力(備蓄米・食糧・水)
  ・人的力(マンパワー)
  ・宗教力(祈り、安寧心の支えになる力)
■宗教者・研究者の連携『利他主義と宗教』22頁
  ・宗教者災害支援連絡会・宗教者災害救援ネットワーク・宗教者災害救援マップ
■心のケアと共感する力   『利他主義と宗教』35頁
  ・傾聴ボランティア
  ・共感縁に基づいた「寄り添いのケア」何でも屋、御用聞き、土台のお手伝い
■寄り添いのケア
   さまざまな縁の喪失 ⇒ 共感縁
   多くを失った人たちの生きる歩みの伴走者
   専門家、地元の宗教者、自治体、大学、NGO、NPO の連携
■無自覚の宗教性『利他主義と宗教』123頁
  「無自覚に漠然と抱く自己を超えたものとのつながりの感覚と、先祖、神仏、
   世間に対して持つおかげ様の念」
■日本人の宗教性 
  ・自分を無宗教と考える人 7割
  ・初詣でや墓参りなどを行っている人 7割  『利他主義と宗教』124頁
  ・宗教的な心を大切とする人 7割(2008年、統計数理研究所「日本人の国民性調査」)
■東日本大震災における活動
  ・共感縁による「寄り添いのケア」
  ・無自覚の宗教性によるボランティア
  ・宗教的利他主義「宗教者のボランティア」
■宗教的利他主義の留意点
  ・独善的になっていないか
  ・閉鎖性(信仰のない人、他宗教の人に開かれているか/一般の人が参加しやすい雰囲気か)
  ・市民団体と同様に、説明責任を自覚しているか?
■日本社会の再生:支え合う社会へ
   利他や社会的責任を説くことは重要であるが、思いやり行動の実践者である生きた
   ロールモデルとのコンタクトが必要不可欠

 

<参考文献>:稲場圭信『利他主義と宗教』弘文堂

第4回研究会

日時
2012年6月15日(金)18:00-20:00
場所
キャンパスプラザ京都2階第1会議室
講師
鈴木岩弓氏(東北大学 教授)
演題
「震災以後の宗教者のちから──「心の相談室」から生まれた「実践宗教学寄附講座」」
「震災以後の宗教者のちから──「心の相談室」から生まれた「実践宗教学寄附講座」」

鈴木岩弓氏(東北大学 教授)

第5回研究会

日時
2012年7月20日(金)18:00-20:00
場所
キャンパスプラザ京都2階第1会議室
講師
大谷光真氏(浄土真宗本願寺派 門主)
演題
「社会の危機に際して、できること──教団、信者、市民」
「社会の危機に際して、できること──教団、信者、市民」

大谷光真氏(浄土真宗本願寺派 門主)

 

≪発表概要≫